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ウラジオ短信

美しい慣習まで日本化

ウラジオストクの市内交通機関で私がよく利用するのは路面電車である。満員の電車では、良きにつけあしきにつけ、人間の本音が表れる。

さて、いい若いもんが公共交通機関の座席にどっかと座っているのを最近よく見かける。日本なら普通なのだろうが、私が初めて来たころのウラジオでは、このような光景はめったに見なかった。

例えば、私のロシア人の友人(男性)は皆、電車で席が空いていても遠慮して座らない。子連れや荷物で両手がふさがって満員電車に乗っていると、既に座っている人が代わりにだっこしてくれたり、持ってくれたりする。お年寄りや小さい子が乗ってきても、ボーっとしているとオバチャンに「立て」としかられたものだった。

ところがこの間のこと、ある停留所で母と息子が乗り込んできた。息子は空いている席を見つけてさっと占拠し、母親はそれをよくやったとばかりに褒めていた。そしてだれもそれをとがめなかった。 ソ連の崩壊と日本製中古車や家電製品の流入とともに、当時の美しい慣習まで日本化したのだろうか。

ある日、私が卵の入った袋を持って手すりにもつかまれずにフラフラ電車に乗っていた。だれかに呼ばれたような気がしたのでふと見ると、そばに座っている女性がひざをたたいて「持ってあげる」と言う。こういう優しさが心にしみるのは私だけだろうか。

1996/03/05 JSN 釈囲 美法

※この記事は、新潟日報紙の「環日本海情報ライン」1995年03月掲載の記事を転載したものです。

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