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モスクワ便り

【Volume.18】レストラン・ミュージアム −“クラスナヤ・プロシャド・ドム1”

レストラン「クラスナヤ・プロシャド・ドム1」を経営するタチアナさん

モスクワの「赤の広場」を訪れた方は、この広場の四方を取り囲む建物を御記憶の事と思う。色とりどりのオニオンドームを冠した聖ワシリー教会、レーニン廟、塔が建ち並ぶクレムリンの赤い壁、グムデパート、そして白い屋根の下、建物全体が真っ赤に塗られた歴史博物館。

何を隠そう、この歴史博物館の住所−「モスクワ市・赤の広場1番地(ロシア語で『クラスナヤ・プロシャド・ドム1』)−こそが、タチアナさんの経営するレストランの名前の由来、そして所在地に他ならない。

レストラン・ミュージアム「クラスナヤ・プロシャド・ドム1」は今から10年前、科学者でコンピューター会社を経営するタチアナさんのお母さんが、自らの夢を実現してオープンした。レストランの経営はお兄さんがひきうけ、両親も兄も朝から晩まで忙しく働いた結果、会社もレストランも大きな成功を収めることができた。

タチアナさんは今年35歳。大学で経済を学んで銀行に就職したが、結婚して長男が生まれたので退職し、3人の息子を育ててきた。タチアナさんは、自分の息子たちが「ぼくのお母さんは何々をしている」、と友達に言えるような、そんな母になりたいと考えて、2年前、大学に再入学した。現在3年次に在籍し、「危機管理」の学位取得を目指している。

今年の夏からお兄さんが別事業に専念することになったため、レストラン経営は彼女に任される事になった。タチアナさんも、母の夢であるこのレストランの経営にはいつか携わる事になると覚悟していたという。

このレストランの一番の魅力は、何と言ってもその「歴史」性にある。

「このレストラン・ミュージアムは、帝政ロシアの貴族が食べていた食文化の歴史を紹介し、更に歴史に残るレシピを用いて、帝政時代の本格ロシア料理の真髄を味わってもらうレストランなのです」

「歴史博物館と協力して、アーカイブに保存されているレシピを研究しています。ロシア人も食べた事のないロシア料理を揃えた、実にユニークなレストランです」

「レストランは両親が経営するコンピューター会社のイメージ戦略の一環でもあり、また単に料理を出すだけではなく、子供たちに食文化の歴史を教えるといった取組みもしています」

オリジナルのレシピにある食材の確保が困難な時もあるが、ベテランシェフと博物館の研究員とで検討しあい、なるべくオリジナルに忠実なメニューの再現を試みている。

アーカーブに保管されている資料から帝政時代の歴史的なレシピを再現

「特に、歴史博物館内の(帝政時代を再現した)部屋で行われる毎月の特別歴史食事会では、1800年代の歴史料理をメニューに出しています。食事と一緒に歴史を知ってもらおうという訳です」

この月1度の食事会は部屋の大きさの都合から、会員制(60名程)での参加となっている。会費は一人につき1回1万ルーブルで、非常に人気がある。

2007〜2008年のパンフレットによると、食事会は10月から翌年の5月まで、計8回開催され、回毎にテーマが変わる。例えば、今度11月20日に開かれる食事会のテーマは、1896年に行われた、皇帝ニコライ2世とアレクサンドラ皇后の戴冠式の日、クレムリン宮殿で出されたディナーを基調としたメニューのようだ。一体どんな料理が出るのか、実に興味深い。

レストランは営業時間が長いため、家庭との両立が難しそうだが、タチアナさんによると、夫の良き理解と、子供達の世話をしてくれるお手伝いさんのおかげで、うまく仕事が出来ていると言う。

勉強好きで、まじめにお母さんをして来た彼女はとてもやさしそうな人柄に思えた。しかし彼女は一方で、まだ日は浅いが、このユニークなレストランと料理の歴史に惹かれて始めた仕事を、自身の新しい切り口で発展させて行こうとしている。明確なビジョンを持った経営者になりつつある、彼女のもう一面を垣間見た気がする。

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