JSNトップページ > ロシアな日々 > モスクワ便り

モスクワ便り

【Volume.14】化粧品製造会社−“Cosmetic Investigation Laboratory”

 「化粧品研究開発実験所」経営者アレクサンドラ・ペスコワさんロシア人女性は服装等の身の回りのおしゃれだけでなく、肌や爪の手入れまで実に細やかにいろいろと気を使っているようだ。特に長い冬の寒さに晒される顔や肌の手入れは念入りに時間とお金をかけていると聞く。ビューティーサロンで専門的な肌の手入れをしてもらう人も多く、モスクワで地下鉄やトロリーバスに乗っていて見かける女性はみんなきれいにしている。
アレクサンドラ・ペスコワさんは、その「肌のケア」に欠かせない化粧品を研究開発する会社を起こし経営している。
友人から紹介されたアレクサンドラさんが経営する会社の名前は“Cosmetic Investigation Laboratory (化粧品研究開発試験所) ”。何やら難しそうな感じで連絡を取るのをためらったほどだ。数日後、電話でインタビューを申し込むとアレクサンドラさんは快く引き受けてくれたのだが、事務所はないのでモスクワの中心地のどこかで話をしたいと言う。研究所と名乗るのに事務所もないとはどういう事なのか。
「私の会社は化粧品を売るのではなく主に研究開発をしています」私の怪訝そうな質問の仕方に、彼女はてきぱきと質問を先取りするかのように早口で話し始めた。
「そして出来上がった化粧品は一般の市場では販売していません。私の会社の化粧品は家庭で使うような化粧品ではなく、肌専門のエステサロンのような所で、肌のケアを専門とするプロに使用される為の化粧品です。専門知識を持たない一般の人には使用が難しいのです」
要するに彼女の研究所が開発する化粧品は、肌の調子を整える為の基礎化粧品だという事がようやく理解できた。
「私の所で造る化粧品は自社ブランドがある訳ではなく、大規模化粧品会社の製造元のひとつなのです」
「我が社が製造する化粧品は4シリーズ:@吹き出もの処理プログラム、Aしみ抜きプログラム、B老化防止プログラム、そしてC体全体の皮膚調整プログラム用化粧品のセットです」とカタログとサンプルを見せながら説明してくれた。
会社設立は2004年。それ以前は別の化粧品製造会社で働いていたそうだ。その会社はビューティーサロンも設立し、独自の化粧品開発もしていて、モスクワ市内にある大規模な化粧品ストアーチェーンでも販売をしていたが事業成績は悪く、アレクサンドラさんの目にも経費の使い過ぎや経営戦略の悪さが目につくようになり、会社運営がうまく行かなくなっていた。彼女自身も経営者と意見が合わない事がたびたびあり、同僚の化粧品学専門の女性と一緒に会社を辞め、二人で現在の会社を起こしたと言う。会社設立3年目の現在、二人の経営者の他には、運転手兼いろいろな雑用をこなしてくれる男性が一人いるだけの会社規模だという。オフィスの所在についても会社設立当初1年半はオフィスを借りていたが、オフィスで出来る仕事は少なく、ほとんどの時間は契約している薬品工場に行っているか、納入先の化粧品会社で打ち合わせをするかでオフィスを使う事が少ないため、現在はオフィスを持たないで仕事をしていると言う。

 

「化粧品研究開発実験所」の見本化粧品とカタログ、化粧品専門雑誌 会社設立の為の出資金はゼロに近く、経営二人が持っていた化粧品の製法とノウハウだけで出発したと言う。まずはサンプルを少し造り、家族や知人達が手伝ってくれて実験してもらい、その結果を今の化粧品会社へ売り込みに行ったそうだ。そして商談成立後注文を受け、会社はスタートした。最初の注文は約10万ユーロで、契約成立後50%の前金を受け取り製造会社へ発注し、納品完了時に残りの50%を受け取った。製造会社とも同じ方法の支払い手順を取っているので出資金は必要なかったと言う。現在の手取り収入は年間約4万ユーロでそれほど多くはないが無理をして規模を大きくしたいとは考えていないそうだ。
「自社ブランドを確立させるのはとても難しいうえに、化粧品1シリーズを完成させるのに半年以上かかり、在庫の保管場所も必要になって来るのでかなりの経費がかかると思う」
現在のコントラクト形式の仕事の方が簡単で、新しい商品開発も現在取引をしている会社と相談しながらできるし、営業活動をしなくても納品先、納入量がはっきり分かっている。今既に次の新シリーズを開発中だと言う。
アレクサンドラさんの持つしっかりとした経営方針の背景には、 以前勤めた会社で目の当たりにした経営不振から学習した経験がもとにあるようだ。会社設立3年目で仕事も軌道に乗り順調に進んでいる今は本業に集中する時、会社拡張や新規の経営は時期尚早と彼女は考えているようだ。
今年35歳のアレクサンドラさんは14歳の娘がいるとは思えないくらい若々しい。インタビューにも早口だが快活明快に答えてくれた。コスメ専門雑誌等にも彼女の会社が取り上げられているのを見せてくれた。途中で入った携帯電話での会話の様子からも、仕事をてきぱきとこなす性格がうかがえた。シビアなコスメ業界の荒波を颯爽と渡り行く“Cosmetic Investigation Laboratory”の今後の活躍に期待したい。 (2007年6月)

<<モスクワ便り一覧へ戻る



page top