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モスクワ便り

【Volume.12】レンタカー会社−“スカーレット”

 インタビューに訪ねて行った住所は帝政ロシア時代の建物を改修工事したようなきれいなビルで、鉄製の豪華な飾りを施したゲートがあった。 車の修理工場とレンタカーなどの会社を経営する女性だと聞いていたので、オフィスは工場の側だと思い込んで出かけた私は、このビルに着いてビックリした。「スカーレット」のオフィスはこの建物の裏の普通のビルにある3部屋ほどのオフィスでちょっとホッとしたが車の修理工場とは無縁の3階にあった。

 マリーナ・ブシュエワさん。オフィスの書棚に飾られたベンツの模型の前で入り口受付の若い女性が愛想良く迎え入れてくれ、経営者のマリーナ・ブシュエワさんのオフィスへ案内してくれた。ピンストライプの黒いスーツにレースの着いた白いブラウスを着た彼女は、ヘッドホンの電話で話しながらコンピュータに向かっていた。

車の修理工場経営者かと思ったと聞く私に、彼女は早速コンピュータスクリーンを私の方に向け、所有する車の写真を次々とクリックしながら、会社内容の説明をしてくれた。

「私の会社にはいろいろな営業項目があります。タクシー業務、VIP用の運転手付きレンタカー、レンタカー、大型バスの提供、車の修理、そしてGPSやGSMシステムを使った車の維持管理システムの提供等です。車の修理工場は別の場所にあり、ここはこれらの会社の本社オフィスです」

「この会社の設立きっかけは、1993年、建設会社のセクレタリーとして働いていた時、小さなレンタカー会社の内容を聞いてこのような会社を経営したいと思い始め、知り合いで車を持っている数人に運転手として働かないかと声をかけて200ドルの自己資金を用意し、一人で会社をスタートさせたのです」と言う。

会社設立当初は、知り合いの会社などへ運転手付きのレンタカー又は車のみのレンタカー業務、タクシー業務の宣伝活動を始め、時間厳守や、サービスを確実に行い、お客様をVIPとして扱う等のサービスで顧客がどんどん増えて行った。現在モスクワ本社以外に、サンクトペテルブルグに支社を置き、ニジニノブゴロドにはフランチャイズの1号店をオープンさせている。会社の経営内容はレンタカーのみではなく人員移動に関する各種の車の手配、リムジンカーサービス、アフターサービスの車修理工場等を主に経営している。1997年経費等を節約してお金を貯め、初めて自分の車、ブルーのメルセデスベンツの中古車を買った時はとても嬉しかったと言う。それ以後全ての収益を車購入に充て、着実に一台ずつ増やして来たという。2005年に初めて銀行から融資を受けて車の購入費用に充てたそうだ。現在合計130台の車と70人の運転手を雇い、普通車、ワゴン車、大型バスで構成され、全ての要望に対応出来るよう車種を備えている。去年購入した団体ツアー客用のスウェーデンの白いスカニア大型バスは彼女のお気に入りらしく、コンピュータの画面を開いてみせてくれた。オフィス人員、修理工場人員等を含めると100人ほどを雇っていると言う。現在所有する大型バス5台の中には中国製の赤いバスがあり、聞いてみると試験的に最近購入したと言う。しかし修理の際の部品の入手等に3ヶ月近くかかり、時間がかかりすぎるのが難点と言う。「スカーレット」社が所有する130台のほとんどは、メルセデスベンツやドイツ製のフォード、韓国車等で、日本車は一台も含まれておらず、聞いてみると日本車は修理部品が高すぎ、部品交換する時も壊れている部分だけ替えようとしてもその部分を含む全体の部品を交換しなければならず、無駄が多いからだと言う。

GPS,GMS等を搭載した「スカーレット」の車の走行をPCで見せてくれるブシュエワさん

最近の投資ではGSM,GPS,GPRSシステムを各車に搭載してより良いサービスを心がけていると言うが、この投資のうしろには運転手との信頼関係など、会社経営の難しさから学んだ事をより良い方法で解決したいと言う願望があったようだ。

会社設立直後急速に成長し、約100人の運転手を抱えるまでになっていても車は運転手の自前、彼らは自分たちの都合で動き回り、時間厳守等のサービスに影響が出始め、その上ガソリン代を多く請求されたり、車の走行距離も業務予定と合わない等の問題が生じ始めたと言う。その他運転手達の質も悪くなり、お酒は飲む、どこへ行ったか連絡はない等が目立ち始めた。今ではリムジン以外はほとんどを会社所有の車と社員の運転手に切り替え、GSMやGPSシステム搭載でその走行歴等がコンピュータに一覧として現れ、全体経費の30〜40%が節約出来るようになった。ガソリン代の予算、修理予定等が着実な数字で組めるようになり、より経営が楽になったと言う。

「私は子供の頃から人形で遊ぶよりも“ルービックキューブ”の様なおもちゃや数字を使ったゲームのようなので遊ぶのが好きだった」と話してくれた。

コンピューター管理で娘の学校帰り時間も把握。帰宅途中に母親の事務所へ寄った娘のナースチャさんと

彼女は35歳で子供が二人、ご主人も彼女のグループ会社の一つで働いている。

「私の考えでは、この規模の会社の良いところは経営者の判断で事が運ぶと言う事だと思う。大きい会社だと重役達が集まって相談しなければならず、決断がなかなか出来ないと思う。私の会社の場合はこれだけの予算でこれだけの事をしたいと私が言えばすぐに実行に移せる。会社の決断にぐずぐず時間をかけていると、顧客はすぐにどこかへ行ってしまう」

今後の目標は、他の業種に手を出すのではなく、車台数をもっと増やすのと、ニジニノブゴロドで始めたフランチャイズ経営を国内全体に拡大して行きたいと熱っぽく語ってくれた。 (2007年4月)

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