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ざわめく極東:東日本大震災が呼ぶ波紋 

 3月11日に発生した東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所のトラブルはロシア極東でも大きな反響を呼んでいる。自治体や銀行が義捐金受付の窓口を設置して支援を呼びかける一方、各監督機関は放射能濃度の推移の監視を強化し、ヨウ素を含む医薬品や食品は飛ぶように売れた。中古車市場では今後は一度水没した中古車の搬入が増えるとの懸念から、現在庫品の相場が上昇した。政府高官らはヒステリックな振る舞いを慎むよう呼びかけ、混乱に乗じたスペキュレーションへの警戒を強めている。他方、災害支援を機に日ロ関係が修復されることを期待する声も上がっている。日本の安全神話を揺るがす事態への反応について現地の報道をまとめた。

3月18日だけで5800回計測
 
  連邦非常事態省のビクトロフ極東センター広報部長によれば、極東の各種専門機関では3月18日だけで合計5800回以上もの放射線量計測を行ない、数値に異常がないことを確認した。550の地上観測所、連邦保安庁国境警備局の監視船、3機の連邦非常事態省のヘリコプターなどがこれを行なった(3月18日付ノーボスチ通信)。計測は連日行なわれ、各地方政府や連邦消費者権利・福祉分野監督庁の公式サイトや各種ニュースサイトでは毎日のように異常なしの報告が伝えられている。

日本から入国する人や物も計測
 
 原発事故発生以来、日本からロシアに帰国した人や入国する船や物品にも放射能検査が行なわれるようになった。3月16日付で極東税関局はワニノ、ウラジオストク、カムチャツカ、ナホトカ、サハリン及びハサンにある海路貨物の税関で放射線モニタリングを強化したことを発表した。これらの税関では設置されている放射線モニタリングシステム「ヤンタリ」("琥珀”の意;連邦税関局の発注によりロシアの測定器メーカー「アスペクト北西」社が開発・製造)を用いた検査が実施されている。商品、輸送手段、国際郵便、個人及び手荷物に自然界と比べて高いレベルの電離性放射線が確認された場合、税関職員は放射性核種のアルファ、ベータの有無を測定できる分光放射計を使って放射線の追加モニタリングを実施することが義務付けられている。また、ハバロフスク地方では全ての国境検問所で日本からの渡航者に対する放射能検査を強化した。3月17日には東京からウラジオストクに帰国した乗客は全てウラジオストク空港で放射能検査を受けた。
 ロシアの船舶会社である極東海運(FESCO)では、船上や貨物の放射能検査や航路の変更の他に、船員の健康を守るために甲板上の貨物に対しては日本で発行された放射能非汚染証明書が必要になった。また、沿海海運(PRISCO)のタンカー船も本社の特別許可なしには日本の港に寄港することができなくなった。
 また3月14日にはオニシチェンコ連邦消費者権利・福祉分野監督庁長官が、脅威に関しての評価を見直すのは時期尚早であり、きちんとした評価はまだできないとしながらも、日本での事故により中国で放射能を含んだ雨が降り、特に中国産の野菜やその他の食品に依存している極東住民の健康を脅かす可能性があると述べた。ロシアにとって中国はトルコに次ぐ第2の野菜供給国であり、金額ベースでは2009年に輸入された野菜(加工品は除く)16億6000万jのうち2億2223万jが中国産だった。しかし連邦動植物衛生監督庁のポポビチ植物検疫監督部長は、地理的に見て中国の野菜が放射能に汚染される可能性はないと述べている(3月17日付Prima Media)。
  3月21日からは連邦消費者権利・福祉分野監督庁も日本からロシアに入ってくる食品、貨物、輸送機関に対する放射能検査実施を国内の各連邦構成主体に指示した。3月20日(日)の時点では基準値を超える放射線の検出はなかったが、ロシアの外食店は既に前週から日本製の食品の入荷を控え始めたという(3月21日付RBC Daily)。
 なお、本誌の調べによると、チェルノブイリ事故で被害を受けたこともあるロシアでは、放射性物質については、日本の食品衛生法に相当する「衛生疫学的規則及び基準2.3.21078-01」(2011年11月6日付ロシア連邦国家衛生医師長決定)において許容値が定められている。これによると、規制対象となっている放射性核種(radionuclide)は、セシウム137とストロンチウム90の2種類のみで、放射性ヨウ素は含まれていない。これについて、半減期が短く危険性が比較的低いとされる放射性ヨウ素は、規制対象から除外されていると考えることも可能であるが、断定はできない。
 また、飲料水等では、全α(アルファ)放射能及び全β(ベータ)放射能に許容値を設け、総量としての放射能を測定しているので、個別の放射性物質に対しては、許容値を設けていないようである。
  ロシアの主要食品の許容値は下記の通り。

 

セシウム137(ベクレル/kg)

ストロンチウム90(ベクレル/kg)

牛乳

100

25

穀物(コメや小麦等)

70

40

野菜

120

40

インスタントコーヒー

300

100

ビール、ウオッカなど

70

100

 

 

全α(アルファ)放射能(ベクレル/g)

全β(ベータ)放射能(ベクレル/g)

飲料水

0.2

1

出所:「衛生疫学的規則及び基準2.3.21078-01」
(2011年11月6日付ロシア連邦国家衛生医師長決定)

 ただし、上記の基準以外に、原子力関連施設の事故などを想定した「放射線安全性基準」(2009年7月7日付ロシア連邦国家衛生医師長決定44)が設定されている。ここでは、事故後1年間において汚染食品に含まれるヨウ素131、セシウム134、セシウム137の許容値が1000ベクレル/kgと定められている。これが日本からの輸入食品にも適用されるかは定かではないが、ロシア国内における1つの基準として考えることは可能である。

日本への渡航自粛と引き揚げが始まる
 
 ロシアでは3月12日付で外務省通達「日本への観光旅行の不都合について」が発表され、それを受けて連邦スポーツ・観光・若者向け政策省観光庁が庁令第50号「旅行会社、旅行代理店及び旅行者への日本における自然災害に関する情報伝達の方策について」を同日付で発令した。これにより観光や個人目的での日本への渡航の一時的な自粛が推奨され、旅行会社らも日本向け旅行サービスの提供を一時停止し、現在訪日中の旅行客らの安否確認が行なわれた。また、3月18日のメドベージェフ大統領との会談でショイグ非常事態相は、ロシア外務省の報告として、日本で正式に登録されたロシア人は2000人だが、日本からロシアへの帰国を希望しているロシア人は6000人おり、さらに増える見通しであることを伝えた。(後略)

(週刊ダーリニ・ボストーク通信889号より抜粋)




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